2022/08/17 14:10

 「今度の(KKCのCD)ジャケットはゴーギャンみたいな絵にしよう!あの南国の感じで、人物の顔がメンバー3人になってるの」


 3、4年前、深夜の串カツ屋さんでバカボン鬼塚さん、BLUE BEAT村上さん、放送作家の川瀨さん、ボクの4人で飲んでる時に出た鬼塚さんのアイデアです。

 ゴーギャンの事は「南の島に魅せられた西洋人画家」くらいの知識しかなかったけれど、トロピカルな絵にKKCメンバーの組み合わせが何ともアンバランスで面白いなぁと他人事のように笑っていました。


 2022年春、村上さんから電話で「KKCのアルバム制作がいよいよ本格的にスタートしたから、井出くんもゴーギャンよろしくね♪」と朗らかに言われました。(余談ですが、村上さんの声はいつも朗らかでなごみます)

「あの晩のゴーギャン、本気だったんだ!」

 鬼塚さんには申し訳ないんですが、冗談だと思っていました。だって、前述の通り、ボクはこの画家の事をほぼ知りませんし、絵の学校に通ったこともないので、油彩画のような本格的な絵を描いた経験もありません。そんな僕にオーセンティックな絵の発注!

「描ける気しねぇ…」

 その日は終日「ゴーギャンかぁ…ゴーギャンねぇ…」とずっと呟いていて気持ち悪かった、と妻が記憶しています。

 

 翌日から仕事の合間を縫って図書館に通う"ゴーギャン画集との日々"が始まりました。絵を隅々まで見るのはもちろん、絵の解説を読んだりコピーやスケッチしてみたりするうちに、「ゴーギャンはゴッホと共同生活してた」など豆知識を仕込んでは飲み会で軽やかに披露するほどゴーギャンに精通していきました。そして、最終的に「イア・オラナ・マリア」(1891)と「我われはどこから来たのか、我われは何者か、我われはどこへ行くのか」(1897)という2つの作品を組み合わせた絵を描くことに決めました。(一度、元ネタとなった絵を見ていただくのも面白いかもしれません)


 細かい作画作業については省略しますが、はじめに鉛筆でしっかりと下書きをして、その上にアクリル絵の具でゆっくりと、丁寧に着色して仕上げていきました。メンバー3人の顔は、画材とタッチを変えたため別の紙に描いてPCで合成しました。


 手前味噌ですが、完成した作品を見て、なんとも形容し難い不気味さを持った良い絵ができたという手応えを感じました。また、こうなることが最初からイメージできていた鬼塚さんってすごいな、と改めて尊敬したのでした。


 ボクは自身の作品について解説した事はほとんどありません。しかしながら、この絵は自分のキャリアの中でも(モチーフ、画材、技術、作画アプローチ等あらゆる点で)ひときわ珍しく、またチャレンジングな仕事となりましたので、皆さんにこの絵が生まれた経緯をお伝えしたく、解説を書いた次第です。


 駄文を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。願わくばKKC「TANPAKU」をご購入いただき、曲はもちろんのこと、この不気味だけども愛嬌のある(と作者は思っている)絵も皆様の生活の彩りとなれば望外の喜びです。



井出新二(BLUE BEAT/イラストレーター)



作画途中の絵です。下書きが終わり、ビクビクしながら慣れないアクリル絵具を塗りました。